開業後

低価格戦略は飲食開業の武器になる?

「安売りは絶対にしてはいけない」

これは私が以前在籍していた人材会社の教えでした。
理由は安売りをすると、それなりの価値しかない会社として扱われるから、だったと記憶しています。

「高い金額をいただいて、質の高いサービスを提供せよ」
という方針だったため、人材業界最大手のR社が300万円で販売している商品の競合商品であれば、私の在籍していた会社では350万円くらいで売っていました。

この方針、今もそんなに間違っているとは思いません。
確かにクライアントになっていただいたお客さまは高額の発注をしているため、その会社の社長を筆頭に人材採用に本当に熱心に取り組んでいただく会社が多かったです。
結果として、会社一丸となって採用に取り組むため、採用も成功するという流れです。

これがもし、150万円で受注していたらどうでしょう。
会社一丸となって採用に取り組むこともないでしょうし、結果として採用も失敗。「あの会社はダメだ」という烙印を押されて終わりでしょう。

こんな教育を受けてきた私ですが、1号店の開業にあたり前職の教えとは真逆の低価格戦略に打って出ました。結果はいかに?

生ビール290円で大手チェーンと勝負に出る

私たちが創業した2002年当時、飲食業界は空前のデフレでした。

覚えているところでは、
マクドナルドのハンバーガーが59円。
吉野家の牛丼が290円。
(価格は微妙に間違っているかも知れません)

景気が良くないと言われている現在から見てもインパクトのある価格設定です。

が、そんなデフレにあってもなぜか価格が下がっていない商品がありました。
それが生ビールです。

当時の大手チェーンの生ビールのジョッキ価格は大体490円くらい。
居酒屋のドリンクで一番注文数の多い商品なので、各社とも生ビールだけは利益を得られる聖域だったのかも知れません。

そこで私たちが打って出たのが生ビール290円という戦略でした。
立地は良くないけど、地域で圧倒的に生ビールが安いお店。
そんなポジションを獲って、一気に地域の人気店になろうという目論見でした。

結果は惨敗...

自信満々で290円の生ビールを打ち出していざ開業。
順風満帆の将来が待っていると思っていましたが、結果は最悪になりました。

詳細は端折りますが、オープン当初こそ効果があったものの、その効果は長く続きませんでした。2〜3ヶ月もすると、もはやそれが当たり前になってしまったのです。
当然ですが、生ビールの注文が一番多いため、お店の経営は急激に悪化していきました。

その後、紆余曲折を経て何とか自ら招いた危機を抜け出しましたが、この危機を抜け出すまでに約2年かかりました。

低価格は悪いことじゃない、けどそれだけじゃダメ。

当たり前かもしれませんが、自分が好きな商品が安かったら誰でも嬉しいでしょう。
でも、それだけでお客さまがずっとお店に足を運んでいただけるのかと言うと、そんなに甘いものではありません。

「お店の魅力的な商品たち」+「低価格」。

一番重要だったのは魅力的な商品たち。
今となっては「飲食店であれば当然でしょ」と思いますが、当時の私たちはこの意識が低かったんだと思います。

さらに悪い事に自分たちが先陣を切って仕掛けた生ビール価格競争に大手が次々と追随してきて、生ビールの価格が一気に下がりました。当然、大手が私たちのお店などを意識するわけはないので、生ビールの価格破壊も、もはや時間の問題だったのでしょう。
私たちのお店の武器は一気になくなりました。

「大手に価格競争をしかけたら絶対に勝てない」

こんな事は当たり前のようにビジネス書を読んでを知っていたはずでしたが、「知っている」のと「理解できている」のは違うものだと痛感しました。

低価格は"戦略"じゃなかった

当時は自信満々で「低価格戦略で攻める」なんて思っていましたが、値段を安くすることなど、やろうと思えばどこの会社でもできるでしょう。
商品開発チームなどの環境が整っている大手ならなおさらです。
値段を下げるというのは戦略なんて言うたいそうなものじゃなく、小手先の手段でした。

これから開業をお考えの方であれば、まずは適正価格で価格を設定することをベースにしたほうが良いと思います。
私たちの経験値になりますが、値下げは後からいくらでも出来ますが、一度低価格にしてしまったものの値段を上げるのはとても大変です。

他の飲食店と戦える「お店の武器」を考える際はぜひ、価格面以外での魅力を磨くことをお勧めします。私たちの失敗談がこれから開業される方の参考になれば嬉しいです。

最後に。。
当時、私たちが低価格で提供した生ビールはモルツ。
当時は珍しかったプレミアムモルツも450円で用意していましたが、モルツ100杯に対して1杯くらいしか出ませんでした。。

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