開業後

飲食店の法人化、タイミングを間違えるとこうなる

2003年5月1日の深夜、創業メンバー4人で乾杯をしました。
場所は練馬駅から徒歩3分ほどにある、知る人ぞ知るショットバー「ISLAY(アイラ)」。
店名から分かる通り、ウイスキーのラインナップが半端じゃありません。

お祝いの名目は、念願だった「法人化」の完了。
創業から約半年、まだ店舗は1店舗だけでしたが、3ヶ月後の8月には2号店の出店も計画していたため、前途洋々なスタートをちょっと贅沢なバーでお祝いしたかったのです。


法人化を祝った場所「ISLAY」。(hotpepperより)
ボトル棚の奥まで並ぶウイスキーは壮観です。

何となく決めた役員報酬

1号店の開業から半年後に法人へ。
何でこのタイミングで法人化したのか、実は良く覚えていません。

恐らく、
「2号店の出店に向けて新たな融資申請の必要が出てくるので、法人化を急ごう!」
と言うのと同時に、
「法人の方がカッコいいから」
というのも理由の一つだったと思います(笑)。

そんな理由で法人化を急いだ訳ですが、法人化した後に気づいたデメリットもありました。
そのうちの1つが、
「事あるごとに書類として履歴を残す必要がある。」ということ。

今となっては当たり前ですが、資本金の内訳や、代表者の選任、定款の作成などなど。
個人事業だった時は何でも気軽に話し合いで決めていた事を、全て書類を作成し、役員全員が捺印し、保管しておかなければいけないのです。

そして、そんな法人化直後の煩雑な手続きの中、最後に残っていた手続きが「役員報酬月額決定の件」という議案だったのです。


当時の報酬決定の議事録。
適当に決めたこの報酬が、後々大問題になります。

法人化から1ヶ月後の6月1日。
4人で報酬を決定したのですが、話し合いはすぐに終わりました。
いちいち議事録を残すのも面倒だったからさっさと終わらせたかった、と言うのもあったと思いますが、話し合いがすぐに終わった一番の理由は、

「何かあったら、また後で報酬を変更すれば良い。」
と思っていたから。

法人化するまではほとんど報酬も出ていなかったので、報酬の基準なんて分かりません。
そのため、とりあえず自分が新卒だった頃の金額くらいに設定しておいて、毎月の業績次第でその都度報酬を変えていこうと思っていたのです。

融資却下と赤字のピンチ

法人化に関しての諸々の手続きと役員報酬を決定してすぐに2店舗目の出店準備に入りました。
2号店の出店は、事業計画では8月オープン予定。
6月から融資手続きと物件探しを始めれば、ギリギリ間に合うスケジュール。

が、想定していなかった問題が発生。

2店舗目の融資を目的に法人化したにも関わらず、融資が下りなかったのです。
(※その時の詳細は「融資が決まる前に物件を契約したらこうなった」に書いています。)
融資が下りる前提で、物件は既に契約済み。
2号店の空家賃と、予定していた2号店の売上が立たなくなった事で、法人化して初年度の事業計画はほぼ達成不可能という状況。

ここで初めて役員報酬の減額を4人で決定。
赤字決算にする訳にはいかないので、役員報酬を大幅に減らして決算を黒字に持っていこうと思った訳です。

「役員報酬は変更できない」という事実

結果的に2号店は当初の予定より2ヶ月遅れの10月にオープン。
そこでどれくらい報酬の減額が必要かを計算しようと思っていた矢先に衝撃の事実が発覚。

「役員報酬は年度の途中での変更が禁止」だったのです。

正確に言うと、変更可能な期間は期初から3ヶ月以内。
私たちは、変更可能な期間を過ぎてしまっていました。

冷静に考えればこれは当たり前です。
期の途中で自由に役員報酬を変更できるなら、法人税の納税額を自由にコントロールできるようになってしまいます。

前途洋々だったはずの法人化が、完全に裏目に出る結果になりました。

店舗展開を目指すなら法人化のタイミングは慎重に

結果的に法人化1期目の決算はわずかな黒字で乗り切ることができました。
確か、4人で知り合いに営業しまくって強引に売上を伸ばしたと記憶しています(笑)。

ただ、この時分かったのは、店舗が少ない時の法人化はとてもリスクが高いという事。

私たちの様に1店舗の状態で法人化した場合、期初に2号店を出した場合と期末に2号店を出した場合では決算が大幅に変わってきてしまいます。

法人にしたばかりの頃は、特にお金の面でシビアな状況なので、正直法人税はなるべく少なくしたいという気持ちになるでしょう。
そのためには決算が収支トントンくらいなるように精度の高い事業計画と役員報酬額を決めなくてはいけない訳ですが、いい物件にいつ出会えるかなんていうのは分かりません。

思ったよりも早く出店できれば大幅黒字。
思ったよりも出店が遅れれば大幅赤字。

黒字が増えれば法人税が増えて、赤字になれば融資が出ない。

こう考えると、店舗が複数になるまでは法人化を遅らせつつ、税法上適正な範囲内で決算のコントロール幅が出てきたら法人化を検討するのが良いのではないかと思います。

ただ、当時の私たちのように「何となく法人の方がカッコいいから」という理由なら否定しませんけどね(笑)。

以上、飲食店の法人化のタイミングについての体験談でした。


法人化した当時、4人で乾杯したテーブルがこちら。
いい雰囲気で将来の夢を語り合ったのを覚えています。

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