開業後

身の丈に合わない贅沢な本社なんて必要か?

「絶対に負けられない戦いが、そこにはある」なんて言葉を結構前に聞いたことがあります。調べてみたら、サッカー日本代表のキャッチフレーズだった様です。

なんでこんな事を書いたのかと言うと、企業の経営でも同じ様な瞬間があるから。
会社経営でいうと、

「絶対に負けられない投資が、そこにはある」

といった感じでしょうか?
飲食店を開業して、「1号店を軌道に乗せる」という第一関門を突破すると、会社は成長段階に入っていくケースが多いと思います。

そして、その過程で思いもよらない「大きなチャンス」が目の前に転がってくる瞬間がある訳です。サッカーに例えるなら、同点のロスタイム、ゴール前でどフリーでボールをもらった瞬間でしょうか?

「決めればW杯出場、外せば予選敗退」みたいな感じ。

「投資に成功すれば会社拡大、失敗すれば倒産」
チャンスとリスクはまさに紙一重なのです。

眼の前に転がってきた大きなチャンス

1号店を開業してから4年半くらいが経った2007年4月ごろ。
創業メンバーの間でちょっとした悩みがありました。

それは、「本社が狭すぎる」という事。

以前、「本社を設置して、出店を加速」という記事でも書きましたが、小さいながらも本社を設置したことで、会社は順調に成長を継続。
嬉しいことに、一緒に働く社員も増えて、当時は社員が15人くらいになっていました。

しかし本社が小さいため、社員が集まって会議をしようとすると、あまりに狭すぎてスタンディングで会議をする羽目になってしまうのです(笑)。

「さすがにちょっと狭くなってきたな〜」なんて話をしていた時にやってきたチャンスが、「新築デザイナーズオフィス」の情報でした。

2フロアをメゾネット形式の階段で繋ぐオシャレな空間。
そして、通りに面した壁面は全てガラス張り構造の目を引くデザイン。

昭和の風情が残る商店街の路地裏にあった本社から、大通りに面した新築デザイナーズオフィスへ移転。
私たちにとって、まさに理想的な物件が出てきたのです。

ただ、問題だったのはその賃料。

毎月の賃料は、元々の本社の約5倍。
さらに、初期の契約にかかるお金や内装費などで、かなりの投資が必要になる事が予想されました。

本社移転という投資に成功すれば、さらなる成長が見込める反面、大幅に上がった賃料に見合う成長ができなかったら一気に会社が傾く危険がある訳です。

余談ではありますが、私が起業前に所属していた会社は、豪華な本社を構えて倒産しかかった経験があったので、私にとってこの本社移転はかなり拒絶反応がありました。
内装が入る前のオフィス。
社員15人の飲食経営の本社にしては贅沢すぎる物件でした。

割れる意見と未来のビジョン

理想的だった物件ながらも、倒産の危険もはらむ本社移転。
私は過去の経験もあり、この移転は反対でした。

当時のやりとりはこんな感じだったと思います。

いや〜、あの物件いいねぇ〜。

確かにね〜、ただ家賃高すぎでしょ。
俺は止めたほうが良いと思うよ、危ない。

だけど、あそこだったら広々ミーティングできるよ。
社員全員のデスクだって用意できるし。

社員全員のデスクって言ったって、みんなが本社に来るのはミーティングの時がメインでしょ。通常はそのまま店舗へ出勤するわけだし。

そうは言ってもさ〜、飲食の会社なのに本社に全員のデスクがあるって良くない?俺はそういう会社にしたいんだよな〜。

なるほどね〜、確かにそれはいいね。
でも流石にその理想に投資するには危険過ぎるでしょ。

いや、移転しよう!
これから入社してくる社員の人たちにとってもこれは重要なことだ。
絶対に移転する。

…仕方ない、それなら移転するか。

私、副社長なんですが、代表に半ば強引に移転を決定され、渋々移転を承諾(笑)。
現状の財務を優先するか、未来のビジョンを優先するか、大きな分岐点でした。

投資と回収のバランス

結果的にフロアは移転しましたが、当時移転したオフィスに現在も本社があります。

危険だと思われた投資は私の予想外の結果を生みました。
沢山の方が社員の応募に来てくれるようになったのです。

路地裏に本社があった頃は、本社を遠目に見ながら帰ってしまう応募者の方もいて、何度か悲しい思いもしていました。
それが、年間150人以上の方が応募してくれるようになったおかげで、毎年の採用にかかっていた広告費を他の投資に回すことができるようになりました。

飲食店の多店舗展開で一番の壁は「人材の採用と教育」でしょう。

本社を移転したことで、人材採用における悩みが解消された事もあり、狙い通りにさらなる拡大をすることに成功しました。

まぁ、移転後は一気に社員が増えたこともあり、すぐに全員のデスクが入らなくなってしまいましたが。。

投資と回収という点でいうと、賃料が5倍になった以上のメリットがあったので、移転という投資は大成功だった訳です。反対した当時の自分が恥ずかしいです(笑)。

飲食店を開業した後は、私のように、とにかく目先の利益ばかりに目が行きがちです。
投資がすぐに回収できないと危ない、という考え。

確かに1〜2店舗の段階ではこの考えで間違っていないかも知れませんが、店舗の利益が安定して上がりはじめたら、将来への投資も同時進行で進めないと結果的に大きなチャンスを逃すことになるかも知れません。

これから開業をお考えの方には、ぜひ当時の私のように目先の利益ばかりに捕らわれず、「将来への投資」という感覚も持って起業していただければと思います。

 

 

 

新本社に設置した社員用のバースペース(当時)。
社員たちとの色んな思い出があります。

-開業後

© 2024 辻本誠事務所